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中国・安徽省涇県(けいけん)。ここは書画の世界で最高峰と称される「宣紙(せんし)」の故郷です。山々に囲まれ、清らかな水が流れるこの地には、宣紙、そしてその兄弟分とも言える「皮紙(ひし)」を千年以上にわたって守り続けてきた職人たちの知恵が息づいています。
今回は、手漉き紙の聖地で触れた、知られざる紙作りの裏側とその驚くべき生態系について深く掘り下げます。
1. 「宣紙」と「皮紙」:素材と技法が織りなす境界線
一般的に「宣紙」と総称されがちですが、涇県ではその素材と製法によって厳格に分類されています。

• 宣紙(せんし): 青檀(せいたん)の皮と、沙田(さでん)の稲わらを絶妙な比率で混合して作られます。青檀は「紙の骨格(強度)」を、稲わらは「墨の表現(吸水性と滲み)」を担う、二人三脚の素材です。
• 皮紙(ひし): 青檀、構(こう)、桑など、単一の樹皮を主原料とするのが大きな特徴です。繊維が長く、宣紙以上に強靭な耐久性を誇ります。

• 「一人」か「二人」か: 技法の面でも大きな違いがあります。皮紙は職人一人が漉枠を操るのに対し、宣紙はそのサイズゆえに、二人一組で息を合わせて漉き上げる「抬簾(たいれん)」という伝統技法が守られています。
2. 「紙の薬」:キウイの蔓がもたらす魔法の潤滑剤
3. チベットの秘宝「狼毒紙」と防虫の知恵
4. なぜ「紙は千年持つ」のか:自然が与えた長寿の条件
「紙寿千年(紙の寿命は千年)」という言葉を支えるのは、涇県の豊かな自然環境です。
• 山泉水の恩恵: 紙作りにおいて最も重要な要素は「水」です。涇県の山々から湧き出る不純物の少ない山泉水は、紙に独特の「潤い」を与え、劣化を遅らせる決定的な役割を果たしています。
• 実証された歴史: 北京故宮博物院に収蔵されている唐代の名画『五牛図』。その支持体には「桑皮紙」が使われており、千年以上経った今もなお、その鮮やかさを保っています。
5. 持続可能な循環:自然を壊さない「収穫」の哲学
大量の樹皮を使う紙作りは、環境破壊と背中合わせのように思えるかもしれません。しかし、現場にあるのは自然との見事な共生です。

職人たちは木を根こそぎ倒すのではなく、成長した枝だけを刈り取ります。刈り取られた場所からは翌年また新しい芽が吹き、2年後には再び原料として使えるほどに成長します。この「再生のサイクル」こそが、古来より続く先人たちの知恵であり、持続可能なものづくりを可能にしています。

結び:一枚の紙に宿る、11人の職人の息遣い

(邵三房)
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