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全称:比丘尼慈香慧政造像記(びくにじこうえしょうぞうぞうき)
— 龍門二十品中の異彩。隷書から楷書へ、時代の胎動を刻んだ奇跡の書 —
1.作品の特筆すべき価値と希少性
この拓本は、中国仏教芸術の集大成の地である龍門石窟に刻まれた、北魏時代(神亀3年、520年)の造像題記です。数ある題記の中でも、特に優れた書法規範とされる「龍門二十品」の一つに数えられます。
本作品が「二十品」の中で極めて特異な地位を占める理由は以下の通りです。
• 唯一の異彩: 「龍門二十品」のほとんどが古陽洞に位置する中、本作品は唯一古陽洞にはない造像記です。龍門石窟第660窟(慈香窟)の基壇西南折れ曲がり部分に刻まれています。
• 最晩期の傑作: 「二十品」の中では最も年代が遅い(520年)作品であり、北魏時代の書風が成熟し、次の時代へと移行する直前の様子を伝えています。
• 史料的価値: 比丘尼である慈香と慧政の修行の心境と、衆生の功徳により仏の慈悲が婦女にも及ぶよう祈福した願いが記されています。これは当時の北魏仏教の世俗化や、女性が宗教活動に参加していた状況を映す貴重な実物資料です。
2.「特異な書法」の魅力:方円兼施のダイナミズム
この造像記は、魏碑体の代表として、漢字書体の変遷を考証する上で極めて重要な史料です。
• 承前啓後の役割: 漢隷の持つ朴拙で重厚な趣きを保ちながら、後の唐楷の規範的で整った様式への萌芽を切り開いた、承前啓後の役割を担っています。
• 結体の自由さ: 古陽洞にある他の「十九品」の方峻で剛硬なスタイルと比較し、本作の結体はより自由で伸びやかな点が最大の特徴です。
• 「方円兼施」の筆法: 筆使いには、柔軟な曲線(円転)角ばった線(方折)「方円兼施」筆法が雑然と混ざり合う現象こそが、北魏書風が隷書から楷書へ移行する過渡期の活発な探索を示しています。
• 天然率真の趣: 碑文のレイアウトは、行列の整然さをあえて追っておらず、行間や字の大小が刻者の勢いに任せて変化し、作為のない天然の率直な趣(天然率真の意趣)が溢れています。清代の碑学理論家康有為は、この型にはまらない動的な章法を「龍蟠鳳舞」と形容し、その芸術的価値を高く評価しました。
3.歴史的評価とコレクション性
本碑は清代に碑学が興隆するまで長く無視されていましたが、康有為が『広芸舟双楫』の中で「能品」に位置づけ、その「千変万化、北碑最奇」(千変万化、北碑の中で最も奇抜)な価値を肯定して以来、学術的な注目を集めました。
民国期以降に広く流通するようになり、現在、東京国立博物館にも収蔵されているように、金石収集家にとって必須の重要なコレクションとなっています。
書の歴史における大いなる変革期の一瞬を捉えた、力強くも自由な精神性を宿した稀有な傑作を、この機会にぜひご所蔵ください。
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